■■第2回■■多発性硬化症の人のための新型コロナウィルス(感染症)対策


2020/04/06

【連載】多発性硬化症の人のための新型コロナウィルス(感染症)対策

 第2回 どうして感染症を避けなければならないの?

<この文章は、2020年4月5日時点の情報をもとに書かれています>

 

前回、多発性硬化症国際連合の新型コロナウィルスに関する多発性硬化症の方へのアドバイスをご紹介しました。

タイトル:The coronavirus and MS – global advice<クリックで外部リンク>

In addition, we recommend that people with MS should:

・Avoid public gatherings and crowds

(人が集まるところを避けて)

・Avoid using public transport where possible

(公共交通機関の使用を避けて)

・Where possible, use alternatives to face-to-face routine medical appointments (for example, telephone appointments).

(電話での受診や他の手段があるなら、いつもの対面の受診ではなく、そちらに変えて)

 

でも、これらを完璧にできる人は多くはないと思います。

「できるだけ」やった方がいいのはわかりますが、どこで線引きをしたらよいでしょうか。

新型コロナウィルスの感染は、多発性硬化症の人にとってどの程度避けるべきものなのでしょうか。

 

これを考える上で必要な、多発性硬化症という病気と感染症の関係を復習します。

 

★★★

 

Q.なぜ多発性硬化症の人は感染症を避けましょう、といわれているか?

A.たくさんの多発性硬化症の方を診療している医師は、かぜなどの感染症のあとに再発が多いということを経験的に知っているからです。

再発は複合的な要因であり、感染症はそのうちの一つです。だから、感染したからと言って必ず再発するわけではないし、このウィルスが再発を起こしました!とも言えないのですが、できるだけ少なくすることは大切、ということになります(「できるだけ」がくせ者で、その程度はその人によって違います。後日触れます)。

特定のウィルスの中では「EBウィルス(ヘルペスウィルスの一種)」と発症(再発)の関係についての研究はありますが、流行が始まったばかりの新型コロナウィルス感染と再発の関係は当然未知ですし、他のコロナウィルスなどについても調査された決定的なものはありません。

 

★★★

 

Q.多発性硬化症の人は新型コロナウィルスに感染したときに重症化しやすいのか

A.これまでに多発性硬化症の人が特定のウィルスでの感染症が重症化しやすい、という信頼できる報告はありませんし、重症化を確信させる材料も今のところ見当たりません。

ただし、薬で治療中の場合は重症化のリスクがある方がいます。

急性期(再発地)治療薬 ステロイド剤、免疫抑制剤
疾患修飾薬(再発・進行予防薬) フィンゴリモド(イムセラ®、ジレニア®)

フマル酸ジメチル(テクフィデラ®)

これらの薬を使用している方は、免疫機能が低下している可能性がありますので、新型コロナウィルスを始め、他の感染症で重症化しやすいことが考えられます。

以上から、多発性硬化症の方の中でも、再発して治療中の方や、日頃、再発・進行予防のためにフィンゴリモドやフマル酸ジメチルを使用している方は、重症化のリスクがあるので用心深くなる必要があります。

 

注意!

「新型コロナウィルスにかかって重症化したら大変だから、薬を飲むのをやめよう」と思われる方もいるかもしれません。その時は、必ず主治医と相談してください。急にやめてしまうと再発の危険が高まったり副作用の危険が考えられます。新型コロナウィルス感染のリスクと多発性硬化症再発のリスクは、地域での流行の様子や、多発性硬化症の再発進行の様子、生活行動の様子など、その人、その時、その場所によって全く違う判断になります。新型コロナウィルスの感染を用心することと、薬の中断や変更は全く別のこととして考えるとよいと思います。

 

視神経脊髄炎(NMO/NMOSD)の治療薬と新型コロナウィルス感染時の重症化について

視神経脊髄炎は多発性硬化症とは違う病気ですが、よく似ているため補足して説明します。視神経脊髄炎の再発予防にもステロイド剤や免疫抑制剤が使われます。これらの薬を使用している方は免疫機能が低下している可能性がありますので、感染症では重症化しやすいことが考えられます。

 

次回は、生活の中で行う感染予防対策についてお話しします。

 

つづく

 

文:医療法人セレス神経難病学習センター

監修:深澤 俊行(さっぽろ神経内科病院 院長)